翻訳家による PLaMo 3 の翻訳能力の評価

2026年11月5日、PFNからローカルで高品質な翻訳ができる言語モデル、PLaMo 3が公開されましたので、これについて翻訳能力や利用場面の想定などについて翻訳家目線で評価を行いました。

PFNのプレスリリース: https://www.preferred.jp/ja/news/pr20261105

PLaMo 3 の利点

本モデルの利点は、高品質である以外に大きく分けると2つあります。

1: ローカルで翻訳できること

ローカルで翻訳できるということは、翻訳文書を外部サーバーなどに渡さなくて良いということです。外部サーバーを利用して翻訳するDeepLなどのツールでは、機密文書を翻訳することに不安が残る場合があります。もちろん、そのようなツールやサービスでもサーバーにデータが残ったりサービス提供側で再利用したりしないようにすることは設定上可能ではありますが、そもそも他のサーバーにデータを飛ばすことのリスクを避けることはできません。ローカルで翻訳できる(オフラインで翻訳できる)ということは、この問題を解決してくれます。

2: 複数のサイズを選べること

PFNは、利用するサイズについて『PLaMo 3 Translateは各ユーザーの機器内で動かすために必要な「モデル重み」を公開したオープンウェイトモデルで、求める翻訳品質や速さ、処理量、使う機器に合わせて0.8B(8億パラメータ)、2B、8B、31Bの4サイズから選択可能です』と説明しています。つまり、ユーザーが自分の作業環境や利用目的に合った大きさのモデルを利用でき、必要以上にメモリや容量を圧迫しません。

gpt-luna-6と、PLaMo 3 0.8B/2Bの比較

私自身は翻訳ツールについて、『究極的な正確さを目指すよりもインターフェイスの使いやすさや翻訳の速さで選ぶ方が良い』と考えているので、現在使用しているgpt-luna-6を導入した自作翻訳ツールのモデル選択でPlamo 3 0.8B/2Bを選べるようにアップデートし、gpt-luna-6とPLaMo 3の翻訳能力を比較しました。

日常使いとしては申し分なく、速度も充分

今回、破格(規範的な文法に則っていない英語)を含めて複数の英日翻訳をチェックしましたが、そつなく翻訳しているイメージです。0.8Bの翻訳速度はgpt-luna-6を上回りました。一部誤訳や不自然な訳が見られましたが、性能と速度を比較するとストレスなく使えて充分という人も多いでしょう。2Bの翻訳速度はgpt-luna-6とほとんど同じです。単文になると2Bの方が速いこともあります。

He says, “You’re late.” And I says, “You told me six!” Then he says, “I said five.”

luna
彼は「遅いぞ」と言う。すると私は「6時って言ったじゃない!」と言う。彼は「5時だと言った」と言う。

PLaMo 0.8B
彼は「遅れてる」と言う。私は「6つだって言ったじゃない!」と言う。すると彼は「5つだって言ったよ」と言う。

PLaMo 2B
彼は「遅いな」と言う。私は「6時だって言っただろ!」と言う。すると彼は「5時だって言った」と言う。

上記例文は、say が物語的現在として用いられている例で、かつ一人称単数にもsaysが使われている破格です。物語的現在を翻訳時に過去形に直すかどうかは判断が分かれるところですが、今回はすべての翻訳で現在時制となりました。I says が用いられたことによる混乱はありませんでしたが、PLaMo 0.8Bはsixやfiveを時間として翻訳できませんでした。

I ain't never told a lie in my life.

luna
俺は生まれてこのかた、一度だって嘘をついたことがない。

PLaMo 0.8B
人生で一度も嘘をついたことはない。

PLaMo 2B
人生で一度も嘘なんてついたことねえよ。

こちらの例文は、ain’t と二重否定が相殺しないパターンを含んだ破格の英文です。いずれも二重否定にせず単純な否定として翻訳できています。

PLaMoは省略の判断が苦手か

前述の通り、PlaMo 0.8B は、2Bよりも誤訳が目立ちました。一例として、次のような誤訳がありました。

It was on that thirty-first of October that the warm spell broke. The morning was gray and leaden, and by noon the incessant winds had changed from searingness to rawness. 

10月31日、暖かい日が続いたのが明けた。朝は灰色に鉛色に晴れ、正午までには絶え間ない風が、焼けるような暑さから身を切るような暑さへと変わっていた。

ここでは、from searingness to rawness が『熱さから熱さへ』となっており、本来の『熱さが寒さに変わった』に対して誤訳となっています。一方2Bは、同じところを次のように訳しています。

その10月31日、暖気が途切れた。朝は灰色に鉛色に染まり、正午までには絶え間なく吹きつける風が、焼けつくような熱から刺すような冷たさへと変わっていた。

こちらでは、少なくとも熱さから寒さに移行したことは適切に翻訳されています。

ただし、0.8Bでも、この一文だけでなくこれに続く文もまとめて翻訳したところ、『熱さから寒さに変わった』ことが正確に翻訳されました。この事実から、PLaMoは文脈が充分に与えられていない場合や省略が発生している場合には誤訳しやすい可能性があると考え、次の英文を翻訳させました。

Not until becoming sick did I appreciate health; poor, money; and alone, friends.

luna
病気になって初めて健康のありがたみを知り、貧しくなって初めてお金のありがたみを知り、孤独になって初めて友人のありがたみを知った。

PLaMo 0.8B
病に倒れて初めて、健康や貧しさ、そして孤独な友のありがたみを悟った。

PLaMo 2B

病に倒れて初めて、健康のありがたみを悟った。貧しく、金もなく、友も一人もいない。

上記例文は、Not until becoming sick did I appreciate health; not until becoming poor did I appreciate money; and not until becoming alone did I appreciate friends. の後半に省略を用いたものです。PLaMoはどちらも誤訳となっています。

どのように翻訳させるかのジレンマ

今回の英日翻訳のパフォーマンス比較だと、PLaMoを用いる場合は単文で翻訳させるのではなくある程度まとまった塊で翻訳させる方が良いようだということになります。

ただし、ある程度まとまった塊で翻訳させる場合、出力された翻訳の正確さを人間が確かめるのも難しくなります。単純に一度に処理する量が多くなり、見落としやすくなったり、一見して筋が通っている翻訳を良しとしやすくなったりするからです。

総括

ちなみに今回の英文について、現在の無料版のDeepLでも翻訳してみたところ、少なくともgpt-luna-6と同程度の翻訳性能があることを確認できました。そのため、現在DeepLやChatGPTで満足しているという場合、無理にPLaMoを導入する必要はないかもしれません。

ただし、DeepLやChatGPTに比肩する翻訳パフォーマンスをローカルで実現できるというのは、とても大きな意味を持ちます。前述のように、機密文書なども外部サーバーに渡さずに翻訳できるのは明らかな利点ですし、またChatGPTやDeepLはあくまで外部サービスなので、それが利用できなくなっているときにも使えるというのも大きいでしょう。そして今回の英文チェックはかなり重箱の隅をつつくようなチェックでもあり、個人が一般利用する範囲では問題になりにくいところでもあると思います。

また、今回のチェックは英日翻訳のパフォーマンスであり、日英翻訳のパフォーマンスはもう少し検証が必要です(ちなみにChatGPTの翻訳も、日英翻訳は苦手としやすいところです)。

個人的にはgpt-luna-6を用いている自作のツールで満足しているのですが、バックアップの翻訳モデルとしてPLaMo 2Bを導入することにしました。0.8Bも大した容量ではないので残しています。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
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