2022年のご挨拶と2023年の抱負

2022年も間もなく終わろうとしています。今年はYouTubeの活動を通じて多くの方と出会う機会があり、翻訳というものにマクロ視点から向き合うことができた一年でした。これもすべて、今年関わることのできたすべての人のお陰です。ありがとうございます。

そうした2022年を経て、2023年にどんなことをしたいかということを何となく考えつつ、ブログに雑記として残しておこうと思います。

翻訳という仕事の継承の難しさ

僕自身は、この翻訳という仕事を心底気に入っていますし、とても楽しい仕事だとも思っています。翻訳とは、原文をもっと多くの人に伝えたいと思うとき、そのままの言語では難しいという課題を解決するための仕事です。それはつまり、僕が翻訳をすることになるものは、ひとつ残らず「誰かに伝える価値がある言葉」であるということになります。そうした大切なものの一時的な預かり場になることは、実にやりがいのある仕事です。

しかし、それに伴う責任や能力は決して低くありません。翻訳家として求められる英語力はいわゆる「ビジネス英語」や「英会話」の類いに求められるレベルの比ではありませんし、日本語ができれば誰でも小説家になれるわけではないのと同様、英語ができれば誰でも翻訳家になれるわけではありません。鍛錬や研鑽と、それに裏打ちされた確かな技術と、その技術と経験から来る自信、そして想像力、時には創造力も必要です。自分の仕事を持ち上げすぎると何となくばつの悪さもありますが、翻訳という仕事に9年を費やした今、これは事実であると強く思います。

少し前、Twitterで「翻訳を副業にしよう」という主旨の謳い文句をひっさげた通信講座が問題になったことがありました。価格が余りにも高すぎたこともありますが、「翻訳なんて簡単だ」という論調のメッセージがあまりに実際とかけ離れていたことも理由にあると感じています。翻訳という仕事は、これまで英語というものに触れていなかった人が一朝一夕でできる仕事ではありませんし、「デビューまでXXヶ月」などと約束できるようなものでも、本来はないはずだからです。

そしてこうした事実を鑑みるに、翻訳という仕事を次世代に伝えていくことの難しさが浮き彫りになるように思うのです。

英語ができるなら、翻訳じゃなくても良い

翻訳という仕事が軽んじられるのは僕の望むところでは決してありませんが、翻訳ができるような英語力(と日本語力)を持つ人材がいたとすれば、その人は他のシーンでもその英語力で頭角を現すことができるだろうことは事実だと思います。さらに言えば、翻訳以外の仕事をした方が実入りが良いということも充分に考えられます。加えて、翻訳家という仕事はキャリアアップの道が見えにくくなっているところがあり、敢えて最初から翻訳家を目指す上での何らかのメリットがあるかというと、少なくとも僕は答えに窮してしまいます。

つまり、英語ができる人材が存在したとして、その人自身に「翻訳」という仕事に対する憧れや魅力がなければ、翻訳という仕事をわざわざその人が選ぶ理由がないのです。英語ができるなら、翻訳以外にも沢山仕事があり、その中からわざわざ翻訳を選ぶアドバンテージが特に無いのです。もちろん、やりがいや人生をかけて言葉と向き合うことといった崇高な理念を掲げることはできますが、それは浪漫であって、浪漫とはシンパシーですから、それを旗にして人を集めようとしても数多くは集まらないでしょう。このことは、翻訳業界における継承の難しさの一因となっているように思います。

加えて、翻訳を学びたいという人に対する学びの場は決して数が多いとは言えません。その上、そうして翻訳を学ぶことは「基礎としての英語力」を学び、その土台の上に「翻訳の技術」を身につけていくことですから、長期的な学びが必要にもなります。継承する上でその学習に時間が掛かること、これも翻訳技術の継承の難易度を上げています。

どうやって翻訳を継承していくか

Lancersの後援を受けて翻訳ブートキャンプというものを始めたのが2020年のことですが、これは自分の翻訳における哲学や技術を継承するための場でした。その中では僕自身が翻訳をするときにどのように理論立てているか、また翻訳家はどのように振る舞うべきか、といったようなことを共有し、参加して頂いた方には好評を頂いております。

また、2021年からはさらに多くの人に情報発信できるよう、YouTubeチャンネルを開設し、2022年にはその活動を通じて多くの翻訳家の方と繋がることで業界における自分自身の立ち位置を客観的に確認することができました。

2023年も引き続き、翻訳という広い意味でのartをどのように継承できるかということを考えていきたいと思っています。それはひょっとすると講座の内容や対象者を拡充することかもしれませんし、YouTubeを用いた情報発信やイベントの開催かもしれませんし、既存の翻訳業界で開催されるイベントなどに参加することかもしれません。

もちろん、僕自身が翻訳における技術力を高めることも大切です。クライアントの期待を裏切らないように技術を磨くのは当然のこととして、二手三手を先読みして必要な知識を学び、例えば広告翻訳やゲーム翻訳、キャッチコピーの翻訳やブランディングに関連した翻訳などのtranscreationにおいては思わず唸るような翻訳を提案できるよう、アイデアの質も磨いていきます。ひょっとすると、そうして翻訳の仕事をする背中を誰かに見せることが、誰かを翻訳の道に惹きつけることになるかもしれません。そんなことがあればどんなに良いかと思います。

また同時に、翻訳という仕事をキャリアパスの袋小路にしてしまわないよう、翻訳という仕事から新たなキャリアや仕事を始められないかといったことにも挑戦していきたいと思っています。いくつかやりたいこと、案があり、2022年には開始を見送ったものを2023年には実践していく予定ですので、どうぞ2023年もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
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