Chat Gptの英語学習への応用について

OpenAIのChatGPTが質問に対してあまりにも流暢な回答をしてくれるということでネット上で話題になっています。曖昧性の高い質問をしても人間の回答のような流暢さで返答してくれるその出力には確かに驚かされるところがあります。しかもこれが日本語でも使えるのだからさらにびっくりです。

その一方で、情報の確かさという面ではまだまだ難しい面もあるようです。AIには情報を「正しいか否か」を”判断”することができませんから、正しい可能性が高い(蓋然性が高い)情報をそれらしく出力することしかできないためでしょう。このため、非常に流暢な出力がされていても、”自信満々に間違った情報を提示している”という可能性が残っています。流暢だからこそ間違いを見つけにくい、この点は機械翻訳における流暢さと正確性の問題に近いところがありますね。

ChatGPTに登録した際に表示される警告。間違いが含まれている可能性についての免責事項がある。

*ChatGPTに登録した際に表示される警告にも、間違いが含まれている可能性についての免責事項が記載されています。

しかし、質問に対してその場でテキストを生成してくれるというのは、使い方によってはとても便利なものであるはずです。しかも英語で質問をすれば英語で返ってくるというのだから、ひょっとするとこれは英語学習にも活用できるツールなのではないか。そう考え、色々と試してみました。以下、その記録となります。本当はYouTubeの動画として更新予定だったのですが、「あまり使い勝手は良くない」という結論になってしまったのでブログとして更新することにします。

*2023年1月11日の追記

ChatGPTを使った英語学習の可能性を見つけたので、それについてまとめた動画を公開しました。基本的に本ブログで言っている内容を大きく撤回するものではありませんが、「こういう使い方ならアリかも」というものです。よろしければご参考ください。

リーディング教材の生成の可能性

まず考えられるのは、リーディングの教材をこれで作成できないか、ということです。ChatGPTに “Write an article about XXX.(XXXについての記事を書いて)” のように指示をすると、それに関連した記事を書いてくれるので、これをリーディングの題材として使うことはできないか、という可能性です。

例えば「ブロックチェーンについての記事を書いて」というプロンプトに対しては、次のような出力がありました。

ChatGPTが出力したブロックチェーンの記事。

コンパクトに要点がまとめられていて、使われている単語や用語も比較的平易なものが多く、構文的にも意味が取りにくい箇所がありません。その意味で、非常にシンプルで読みやすいテキストが生成されていると言えます。

ただし内容としてはあくまで一般論や「調べればすぐに分かる情報」の列挙に留まっており、これといった「新しい発見」はありません。そしてもちろん、この情報の何処かに間違った内容が含まれていたとしても、ブロックチェーンに詳しくない人にとってそれを見つけることは困難でしょう。

試しに、日本の小説家である西尾維新についての記事を書くように入力すると、次のような結果が出力されました。(Ishin Nishioとしても同じ結果でした)

例えばここでは、1971年の生まれとされていますが(Wikipediaによれば)本来は1981年の生まれであることや、代表作がDeath Noteであること(デスノートはスピンオフ作品の小説を担当したものであり、必ずしも代表作ではない)、翻訳家とされていますが本人が翻訳した作品はないことなどが誤情報であるにも関わらずそれらしく記載されています。一部には正しい情報も含まれているため、尚のこと誤情報が分かりにくく紛れ込んでいます。

このように、情報の質に課題がある以上、Chat GPTをリーディング教材の出力に用いることは難しいと判断せざるを得ないでしょう。「ただ読むためだけの平易な英語を出力したい」ということであれば用を為すかもしれませんが、そういったリーディングは味気なく、学習者のモチベーションには寄与しないかもしれません。

ライティングの手本としての可能性

意味内容やファクトチェックの面で問題がある場合でも、文構造や作文の手本として使うことはできないか、という面からChatGPTを掘り下げてみたのですが、こちらも残念ながら上手くいきませんでした。

例えば2022年度の第2回英検準1級のライティング問題に、「インターネットの情報を信用するべきか?」という問いがあります。これの模範解答をChatGPTに書かせると、次のような出力が得られました。

ChatGPTによる「インターネットの情報を信じるべきか」

この出力において特筆すべき点は、Yes/Noの回答になっていないということです(これはAIの出力において特定の意見表明が避けられるためと考えられます)。このため、質問に対する回答になっておらず、模範解答としては減点対象と言えるでしょう。

実際の文構造を見ても、前半では「インターネットという情報源は広大で複雑である」こと、後半は「それを使いこなすためのヒント」となっており、ライティングの模範解答としてよく挙げられる、「結論 → 根拠 → 再度結論」の構造を逸脱しています。

もうひとつ、「投資でよりお金を稼ぐにはどうすれば良いか」をプロンプトとした出力を見てみましょう。

先の出力と比較すると、「前提や前置き」、「前段を受けた詳細または例示、あるいは話題の転換」、「前段の総括」といった段落分けが共通していることが分かります。この書き方は何かを伝えるための書き方というよりも、筆者自身が考えながら、思考をまとめつつ書いたテキストに見られるものであるように思います。つまり、試験における模範解答の文構造として用いるべきフレームワークではありません。

このため、「ライティングのお手本」としてChatGPTの内容を参考にするのにも限界があるように感じられます。一方、文単位でのシンプルな言い回しを学びたいということであれば、その用途には活用できるかもしれません。

まとめ

以上のことから、ChatGPTを英語学習の補助ツールとして用いることには課題が残っていると考えられます。

とは言え、技術としてはとても興味深く、面白いので、ちょっと触ってみるくらいはしてみても良いかもしれません。あくまでチャットツールとして英語での会話をシミュレーションしてみるということであれば、「適当なことを言うこともある話し相手」としてはかなりよくできたツールであることは間違いないでしょう。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
前へ
前へ

2022年にアップロードした、ぜひ見て頂きたいYouTube動画

次へ
次へ

Youtubeの登録者数が1,000人を越えました