不思議の国のアリスを翻訳しました

ラブクラフト作品の翻訳が一段落したので、不思議の国のアリスの翻訳をし、その翻訳が発刊されました。本は【こちらから】ご確認頂けます。

言わずもがな、有名な作品であり、何となくのあらすじは多くの人が知るところだと思うので、ここでは翻訳意図などについて簡単にお話ししておきます。本書の後書きにはもう少し詳しいことが書いてあるので、もしよろしければそちらもご参考ください。


普段から「翻訳とは原文に対するバリエーション」というのが僕の主張なのですが、今回もバリエーションとして振れ幅の大きめな翻訳をしました。具体的には、原文は『作者が読者に語りかける文体』であるのに対し、全体的に地の文をアリスの一人称に置き換えました。またこれに伴って、主にライトノベルやジュブナイル小説などの文体を参考にしました。

こうした事情のため、かなり軽めの文体になっており、重圧な古典文学の感はほとんど残っていません。「もうちょっとスタンダードな翻訳で読みたい」ということであれば、オンラインで無料公開されているものも数多くありますので、ぜひ自分にとって一番ピンとくるアリスを探してもらえればと思います。それこそが翻訳のバリエーションとしての価値だからです。

一方、こうしてアクの強い翻訳をしたことで、翻訳の段階でどれくらい表現の幅があるのか、翻訳によって作品の再解釈はどの程度可能か、といったことの一例となる翻訳になったかと思います。もちろん、普段からこうした再解釈が強めの翻訳が良いわけではありません。これはあくまでクライアントが存在しない、個人的に好きで勝手に翻訳したものであるから可能なアプローチなのであって、クライアントが存在するお仕事におけるアプローチはまた別の考え方が必要になります。今回の翻訳は、可能性や能力の幅広さを示すという意味で、例えばファッションショーで奇抜な服がお披露目されるみたいなことだと思って頂ければ幸いです。

特にラブクラフトやホームズの翻訳をこれまで読んで頂いた方にとっては、かなり印象が違う翻訳になっていると思いますので、気になる方はぜひ試し読みからでも。

鏡の国のアリスについては、翻訳するかどうか検討中です。また、このアリスの翻訳において堂本が考えていたことなどについては YouTube で軽く触れました。よろしければ【こちらの動画】もご参考ください。

追記

『鏡の国のアリス』の翻訳も、同様のスタンスで行いました。不思議の国と鏡の国の関係性などを踏まえた上で言葉遊びをローカライズしているので、こちらもよろしければご参考頂ければ幸いです。

そして、その翻訳についての解説も出しました。こうした解説は蛇足の感もありますが、今回は翻訳意図や原作との比較が気になるということもあるかと思い、気になる人向けに公開しております。基本的には不要な内容ですが、発注したイラストへの注文やその意図などもまとめたので、よろしければこちらも是非。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
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