ChatGPTの使い方講座をやる裏話
Lancersのバックアップを受けて、ChatGPTの使い方についての講座を行います。ChatGPTの基礎から、堂本が普段どのような作業をChatGPTで(あるいはChatGPTと)行っているのかについて解説する予定です。
具体的な内容については上記の画像か【こちら】から募集ページへ飛んで頂ければと思いますが、このブログではどうしてこのタイミングでこの講座をやるのかということについて少しだけ裏話をします。
どうしてこのタイミングなのか?
ChatGPTの技術が騒がれ始めたのが去年の晩秋で、そこからChatGPT4も登場し、APIの公開があって、多くのアプリが作られるようになりました。その意味では、この講座のタイミングはやや遅れている感があるかもしれません。
このタイミングでの開催の理由はふたつあります。ひとつは「まだ遅くないから」、もうひとつは「単なる流行ではないことを確信したから」です。
ChatGPTは、現在3.5と4が利用可能となっています。しかし、APIが一般公開されて広く使われているのは3.5の方であり、4は有料でもあり、またAPIも限られた人にしか公開されていないため、使用率は高くない印象です。つまり、多くの人はまだChatGPTに何ができるのか(ChatGPT3.5と4のパフォーマンスの差)を知りません。そして今後、ChatGPT4が一般化していけば、これによる変化が広がっていくことは間違いないでしょう。だからこそ、最新のChatGPTについて何ができるのかを学ぶタイミングとして、今この瞬間は遅くはないと言えるのです。
また、現在ChatGPTを用いて「何かを生み出そうとしている」人は非常に少数派です。これはちょうど、例えばパソコンを買い与えられた子どもがそれをゲーム機にしてしまうか、それとも自分でもゲームを作ってみようと思うか、という分岐点に似ています。もちろん、前者が悪く、後者が良いというわけではありません。ただ言えるのは、後者の道を選ぶ人は非常に少ないということ、また選び続ける人はさらに少ないということです。これはChatGPTという汎用性の高い技術にも、そっくりそのまま当てはまるのです。
もうひとつの「流行ではないことを確信したから」という点について。これまで、新しく生まれた技術がもてはやされ、失望され、時代の覇権を握り損ねたという流れは何度もありました。「これからは仮想通貨の時代だ」と言われたのは随分と前のことですが、まだ仮想通貨が暮らしの中に”当たり前”に溶け込んでいるかというと、少し首肯しがたいところではないかと思います(ここでの”当たり前”とは、例えばクレジットカードのレベルで皆が当たり前に使うくらいのことを想定しています)。
もちろん、だからといって仮想通貨の技術が無駄であるわけでも、ハリボテや案山子であったわけでもありません。その技術は、今も見えないところに活かされていますし、その技術があったからこそ実現したこともたくさんあります。それでも、仮想通貨という技術やその理念が日本の人口に膾炙したとは言い難く、仮想通貨は一過性の熱として過ぎ去っていった感があるのは間違いありません。これは技術の素晴らしさや高度さ、それが実現できる未来の価値とは無関係に、市場のプレイヤーの熱が冷めてしまったということです。
個人的には、ChatGPTもそうなる可能性があるのではないかと思っていました。人間みたいに話すAIであり、おもちゃとしては面白いかもしれないが、実用性は低いのではないか。しかし、言語を扱うAIとなると、翻訳家としてこれを調査しないわけにはいきません。DeepLやGoogle Translateよりも優れた翻訳を行う可能性もあるし、もしもそうだとすれば、翻訳家としての仕事の在り方が変わるかもしれないし、少なくとも立ち振る舞いは変えなければいけない可能性があったからです。
そして調査をしていくと、「思ったよりも色々なことができる」ということが分かってきました。翻訳のレベルはDeepLやGoogle Translateと比較して特に凄いということはなかったし、情報のソースとして使うにはあまりにも嘘をつくということも分かってきましたが、それでもChatGPTに価値があったのは、このAIが「それらしい返答をしてくれる」ということは間違いなく、そして「それらしさ」の方が(時には正しさよりも)重要であることも、世の中には多いからです。
何よりも、これまでの新技術に比べて圧倒的に「分かりやすい」と思いました。仮想通貨やWeb3、ブロックチェーン、分散型Web、そういうものは確かに価値を持ちますが、専門家でもなければ何が凄いのか、何ができるのかが分かりにくく、多くの人にとって身近なものに感じにくいという点があったと思います。しかし、ChatGPTは「聞けば人間のように返してくれる」という分かりやすいリターンを、誰でも試せる形で示してくれました。「これは本当に久々のゲームチェンジャーだ」と思ったのが、つい昨日のことのようです。
ChatGPTが本当のゲームチェンジャーであるなら、これを上手く使うことは今後のゲームのルールで戦う上で大きな意味を持ちます。そして前述したように、ChatGPTには開発上での技術的・倫理的問題や、ユーザーが使う上での情報の不完全性の問題など、解決していかなければいけないことも多く残っています。したがって、少なくともユーザー目線では「どういったことが可能なツールであり、どのようなことが”可能でない”のか」を理解することは特に重要であり、今回、そのための講座を開くことに相成りました。
どうして動画講座ではなく集中講座なのか?
しかし、ChatGPTはゲームチェンジャーであると言っても、まだその技術応用は発展の可能性を大いに残しています。現在、プロンプトエンジニアリングという「ChatGPTに適切に仕事をさせるための命令文の作成」という技術が注目されつつありますが、今後ChatGPTに直接画像や動画を読み込ませることができるようになったら、こうしたプロンプトエンジニアリングの技術も一気に過去のものになるかもしれません。そうでなくとも、大型のアップデートがあれば、プロンプトエンジニアリングの最適性も変わってくるでしょう。
つまり、ChatGPT(引いては学習するAIの世界)においては、昨日が既に歴史になるような速度で物事が進んでいるのです。そのような中で、例えば動画講座で何かを解説したとしても、その動画は一年後には何の役にも立たない内容になっているかもしれません。それであれば、集中講座として現時点での最新情報を伝えられるようにした方が良いのではないか、そしてリアルタイムの講座であれば、その講座期間中に何らかのアップデートがあればそれについても触れつつ解説が可能なのではないか、ということで、今回はリアルタイムの集中講座としてイベントを行うことにした次第です。
どうして本業が翻訳家であるのにChatGPTの講座をやるのか?
翻訳家として日本語と英語の両方についてある程度の造詣があるつもりで、この数ヶ月間、ChatGPTを英語と日本語の両方で触ってきました。その結果、英語の場合はこういうプロンプトで、日本語の場合はこういうプロンプトにすると良い、というようなことが分かってきました(ちなみに、基本的には英語の方が良い出力になることも確認できました)。
この経験から、ChatGPTが本当に得意なことは何なのかについて考えた内容をまとめる、というのが今回の講座内容となります。
また、もうひとつの裏目的として、「ChatGPTにおける自動翻訳の限界」について知って頂くという面もあります。例えばChatGPTは、「これまでDeepLだと駄目だった翻訳もできる」というようなものではありませんが、「翻訳もChatGPTにさせればOK」というような極論の言説はTwitterでも見られるようになってきました。
僕は、人間の翻訳家が機械翻訳と共存するためにどういうことができるか、また人間の翻訳家がどういった価値を提供できるか、ということについて常々考えています。それを考える上では、ChatGPTの技術やパフォーマンスについても、当然素通りはできませんでした。こうしたことから、ChatGPTに翻訳をさせるならどのように使うのが良さそうか、どういった点が問題になるのかなどについても知って頂くことで、コントラストを強める形で人間翻訳の価値を再認識して頂きたい、というのが裏テーマとなっています。
とは言え、これはあくまで裏テーマであり、表のテーマはChatGPTのノウハウに関するものであって、この翻訳の話については深入りする予定はありません(この点についてはYouTubeや翻訳講座で取り上げようと思います)。
以上のような動機や経緯あってこの度開催させて頂くChatGPT講座、興味があればぜひご参加頂ければ幸いです。
ちなみに
ChatGPTを使って、上級者向けの英単語を作成しました。この英単語帳を作成するのに掛かった時間は、収録用の英単語リストがある状態で開始し、全体でそれぞれ着手してから3日程度です。このプロンプトについては、以前の記事とvol.1の付録にて解説しています。