ChatGPT、DeepL、人間の翻訳の比較(日英)

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前回の記事】では、英語から日本語にする場合の英日翻訳において ChatGPT や DeepL と、人間の翻訳(堂本の翻訳)がどのように異なるかを確認しました。この記事では、日本語から英語への翻訳である日英翻訳においてのパフォーマンスの違いを確認していきたいと思います。


検証について

今回の検証でも、ニュース記事の日英翻訳と小説の日英翻訳の比較を行っています。

ChatGPT についてはプロンプトや試行回数、それまでの会話の流れによって、異なる結果が出る場合があり、あくまで一例となる点、文体を指定していない点も同様です。また、堂本の翻訳も、特に翻訳についての目的などが与えられていないことを前提とした一例です。

ニュース記事(日英翻訳)

原文

政府が今の健康保険証を来年秋に廃止する方針について「廃止期限を延期すべき」または、「方針を撤回すべき」と答えた人があわせて73%にのぼることが、最新のJNNの世論調査でわかりました。岸田内閣を支持できるという人は、先月の調査から6ポイント下落し、40.7%でした。一方、支持できないという人は、8.1ポイント上昇し、56.4%でした。

From: TBS News Dig

ChatGPT

The latest JNN public opinion survey revealed that 73% of respondents believe that the government's plan to abolish the current health insurance card next autumn should either be postponed or the policy should be retracted. The number of people who can support the Kishida Cabinet has dropped 6 points from last month's survey, standing at 40.7%. On the other hand, those who said they cannot support it has increased by 8.1 points, amounting to 56.4%.

DeepL

A total of 73% of respondents said that the government should "postpone the deadline" or "withdraw the policy" with regard to its current policy to abolish health insurance cards next fall, according to the latest JNN poll. Those who said they could support Kishida's cabinet dropped 6 points from last month's survey to 40.7%. On the other hand, those who disapprove rose 8.1 points to 56.4%.

堂本訳

The latest JNN poll revealed that 73% of respondents believe that the government’s plan, the removal of the health insurance card in the fall of 2024, should be postponed or rescinded. The survey also showed that 40.7%, which number is a 6-point decrease from the score last month, support the Kishida Cabinet, while 56.4%, which is an 8.1-point increase, don’t.

総括

ここで最も興味深いのは、ChatGPT が文法ミスを犯していることです。具体的には、最後の has が本来は those who csupport it という複数形の主語に対応して have でなければなりません。この場合は大きく意味が変わるようなミスではありませんが、ChatGPT が文法ミスを犯し得るという事実は非常に大きな意味を持ちます。

DeepL の翻訳について見てみると、a total of 73% of respondents… という主語から始まりますが、何の respondents であるのかは according to the latest JNN poll という後半部分に差し掛かるまで分かりません。この語順は原文の語順と一致しているので、その意味では忠実な訳と言えますが、読み手に対して『未解決の内容』を保持させてしまう英文であると言うこともできます。

堂本の訳では、並列表現や省略表現を用いることで全体の意味を損なわずに英文全体を僅かに短くしています。ただしこの訳では挿入的表現が多くなっており、特に英語の語順に慣れていない非ネイティブだと、この点を嫌がる読者もいるかもしれません。

堂本訳の補足

堂本が翻訳している中で、つい 40.7% の前に only を入れたくなりました。これは、前回から6ポイントも下がっていることを受けての気持ちからでしたが、原文ではこの 40.7% を非難するような論調というわけではありません。そのため、翻訳者の判断で only で「数字の低さ」を強調するべきではないと考え、踏みとどまりました。


小説の日英翻訳

原文

わたくしはその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚はばかる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。

From: こころ

ChatGPT

I have always called him "Sensei." So here too, I will simply write "Sensei," and will not disclose his real name. This is not so much out of consideration for public opinion, but because it feels more natural to me. Every time I evoke memories of him, I immediately want to call him "Sensei." The feeling is the same when I pick up my pen. I simply can't bring myself to use a more impersonal initial or abbreviation.

DeepL

I always called him "Sensei. So even here, I just write "Sensei" and do not tell him my real name. This is more because it is more natural for me than out of any sense of reserve. Whenever I recall a person's memory, I feel like saying "Sensei" immediately. I feel the same way when I write. I do not feel inclined to use distant acronyms.

堂本訳

I used to call him “Sensei.” So, I want to call him so here, too, without disclosing his name. This is not because I want to keep him from the public eye, but rather because I feel it sounds more natural to me. Whenever I remember him, he appears as my sensei in my mind. A pen does not make a difference. Using his initials would sound alienating.

総括

全体として文法的なミスはありませんが、やはり小説が原文となると差が出てきます。興味深いのは、「先生」の部分を ChatGPT も DeepL も sensei と訳していることです。これが「先生と呼んでいた」というところから音を重視したのか、sensei という日本語が英単語として市民権を得つつあるということなのか、議論の余地がありそうです。また、どちらの機械翻訳も引用符を用いて sensei を強調している点も興味深いと言えます(原文では、この部分には強調はありません)。

ChatGPT の翻訳で気になるのは、「世間を憚る遠慮」というところが consideration for public opinion となっている点です。ここでは「世間の目」や「衆目に曝してしまうことへの遠慮」の意味ではないかと堂本は考えましたが、ChatGPT は「世間の意見への配慮」と考えたようです。それ以外の点については、英文のバリエーションとして良く書けているように思われます。

DeepL の翻訳では、まず最初の sensei の引用符が閉じていない点が気になります(DeepL で非常によく見られるエラーです)。また、「先生と書くだけで本名は打ち明けない」について、will not tell him my real name となっており、「彼(先生)に私の本名は言わない」という誤訳になってしまっています。ほか、recall a person’s memory というのは「その人の記憶を呼び起すごとに」に対応していると考えられますが、「その人」とは「先生」のことなので、a person とするのは不自然です。I feel like saying “sensei” immediately. というのも、「先生といいたくなる」の部分に思われますが、この「いいたくなる」は「呼びたくなる」と考えた方が良さそうです。ほか、distant acronyms も「よそよそしい頭文字」の翻訳としては微妙です。

堂本の訳では、所々に意訳が含まれています。例えば「その人の記憶を呼び起すごとに、すぐに先生といいたくなる」の部分については、Whenever I remember him, he appears as my sensei in my mind. として「その人のことを思い出すといつも、その人は私の心に、私の先生として現れる」という表現に置き換えられています。「筆を執っても心持は同じ事である」は A pen does not make a difference. として英語的表現が強くなっていて、「よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない」は Using his initials would sound alienating.(イニシャルを使うというのはよそよそしく響くだろう)となっています。

堂本訳の補足

この訳の懸念点としては「わたくしはその人を常に先生と呼んでいた」を I used to call him “Sensei.” としており、「今は先生と呼んでいない」ことが一文目から明らかであることです。

この事実の確定は原文からは明らかではなく、used to を使って良いものかどうか、判断が難しいところです。個人的には、used to を使うことで「”わたくし” と “先生” の間に何かがあったのだ」ということが読者に暗に伝わることは、先が気になる要素となり得るのではないかと思っています。


まとめ

日英翻訳の場合、日本語の性質上、原文の要素が省略されている傾向が強いと言えます。その点を鑑みると、特に原文を重要視して対応する翻訳を試みる DeepL は、省略傾向が強い小説などの翻訳に向かないと言えるのかもしれません。この点については、ChatGPT の方が出力に力を入れている分、違和感のない表現を出してくれるところがありそうです。

ただし、ChatGPT が文法ミスを犯し得るという点については、翻訳以外の場面で ChatGPT を用いる上でも大きな意味を持つと言えるでしょう。やはり、どのような場合でも出力された英文の正しさを確認する利用責任がユーザーにあることは間違いないと言えそうです。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
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