クラウドソーシングサイトで翻訳者を見つけるときのコツ

Lancers(ランサーズ)や Crowdworks(クラウドワークス)、coconala(ココナラ)など、タスクを外注できるクラウドソーシングサイトが一般化し、翻訳という仕事をクラウドソーシングサイトで外注するという人も多くなってきています。事実、堂本も ランサーズ経由でお仕事を頂くことが多くあります。

しかし、こういったクラウドソーシングサイトの翻訳者について、『本当にプロなのか?』や、『適切な能力を持っているのか?』ということについて疑問があるという人も少なくないでしょう。

事実、翻訳会社に所属している翻訳者の多くはトライアルという試験を受けているため最低限の能力が保証されている傾向にありますが、ランサーズ、クラウドワークス、ココナラ、また翻訳専門であれば conyac(コニャック)などのクラウドソーシングサイトでは、特に翻訳者としての登録に試験があるわけではありません。そのため、能力は千差万別です。

この記事では、クラウドソーシングサイトで翻訳者を探すときにどういった点に気をつければ良いのか、実際にランサーズで翻訳者として活動している立場も踏まえて解説します。


1: 実績の確認

クラウドソーシングサイトで翻訳者を選ぶ際には、まず第一に、翻訳者の経験と実績を確認することが大切です。ランサーズやクラウドワークス、ココナラなどのプラットフォームでは、多くの翻訳者が過去のプロジェクトや得意分野をプロフィールに記載しています。これらの情報から、翻訳者の専門性や経験を判断することができます。

もちろん、そのプラットフォームでは登録したばかりで、プラットフォーム上での実績がないだけで、それ以外の場所での実績や経験が豊富であるというような翻訳者もいます。プラットフォーム外の実績や経験についてはプロフィールに書いてあるはずなので、チェックしてみると良いでしょう。

一方、残念なことに、自分の経歴を『良く見せようとし過ぎる』人もいて、その結果、プロフィールから期待される能力と実際の能力に差が生まれてしまっているということもあります。このような翻訳者を見分けるには、サービスへの登録日を確認するのがひとつの目安になるでしょう。

サービスへの登録が浅い場合には、能力がある翻訳者でもプラットフォーム上での実績に繋がる仕事を得られていないかもしれません。しかし、サービスの登録が長く、それなりにアクティブなアカウントであるように見えるのに実績が伴っていないようであれば、危険信号です。

実績に加えて、クライアントからの評価やフィードバックを参照することも有効です。翻訳の品質や納期の厳守、コミュニケーション能力など、過去のクライアントの評価は翻訳者の実力を推測する上で重要な手がかりとなります。

2: 専門分野の有無

翻訳者が特定の分野に特化しているかどうかを確認することも重要です。

例えば、法律や医療、技術文書など専門性の高い分野では、その分野の知識が豊富な翻訳者を選ぶことが望ましいことは言うまでもありません。ただその言語(例えば英語)が分かるというだけでなく、その分野についての知識を持っているか、あるいはその分野の翻訳の経験が豊富であるか、またはその不足を補うだけの翻訳者としての総合的な経験があるかなどから、総合的に判断することが必要になります。

3: 翻訳というものを理解しているか

プロフィールや打診のやり取りなどで、『英語力がある』や『留学経験がある』というようなことを強くアピールしてくる翻訳者には注意が必要です。

もちろん、英語力があることや留学経験があることは、翻訳能力にとってマイナスではありません。しかし、翻訳者にとって英語力があることは大前提であり、問題はその英語力を発揮して『良い翻訳』ができるかどうかというところにあります。

『良い翻訳』の定義や考え方、価値観は様々ですが、少なくともそれは『英語力が高い』ことだけに裏打ちされるものではありません。翻訳家にとって当然である『英語力の高さ』を必要以上に強調するのは、翻訳が総合的な能力を求められる職業であることを理解していないからかもしれません。

4: 英語力があるか

上記で『英語力を強調し過ぎるのは危険かもしれない』ということ、『翻訳家にとって英語力は当然あるもの』としていますが、残念なことに、英語力に乏しいながら翻訳家として活動しようとしている人(また、実際に活動している人)もいます。

これは、ランサーズやクラウドワークス、ココナラといったサイトに翻訳家として登録する上での試験がないことの弊害でもあります。誰にでもチャンスがある代わりに、発注側が玉石混淆の中から玉を見つけなければいけないという問題が発生していると言えるでしょう。これは働き手のモラルの問題でもあり、プラットフォームのシステムの問題でもあります。

ただ事実として現状がそういった状況である以上、対策を講じる必要があります。ひとつには、上記の『翻訳を分かっているか』のチェックと合わせて、翻訳のサンプルを要求するのも良いでしょう。サンプルを通じて、その翻訳者の文体や正確性を直接確認することが可能です。ただし、サンプルの要求は翻訳者の負担になることもあるため、適切な方法で行うことが大切です。

あるいは、英検やTOEICなどの外部試験で、最低限の成績を修めているかどうかを確認するのも良いでしょう。英検やTOEICが高いことが必ずしも優れた翻訳者の証ではありませんが、少なくともそのレベルの『英語力』は担保されていることになるからです。

他には、社内または社外の英語ができる人(あるいは既に付き合いのある翻訳家など)に、翻訳者の選定プロセスに関わってもらうのも良い案です。翻訳の評価を行うことは、ある程度翻訳に造詣がなければ難しいものです。

5: 金額感について

最後に、価格と品質のバランスを考慮することも忘れてはなりません。安価な翻訳者を選ぶことはコスト削減につながるかもしれませんが、品質が低いと全体のプロジェクトに影響を与える可能性があります。そのため、予算と翻訳の品質を考慮して、最適な翻訳者を選ぶことが重要です。

翻訳者の中には、『副業であるから』や『自信がないから』といった理由で、市場価格よりも安い金額設定で取引をする人もいます。しかし、自分の翻訳のクオリティに自信がある翻訳家は、それに応じただけの対価を自ら設定することができ、それを自信をもって提示することができます。

特にクラウドワークスやココナラ、コニャックの翻訳の相場は翻訳業界から比較すると非常に安く、ランサーズでも一部を除いて多くの翻訳者は消極的な値段設定にしている傾向にあります。必ずしも『安かろう悪かろう』ではありませんが、値段が異常に安いケースでは、その翻訳者の自信のなさが表れていると見てほぼ間違いありません(もちろん、そのプラットフォーム上で実績を作るために最初のみ金額設定を低くするという戦略にしている人もいます)。

こうしたことから、単に金額が安いことを決め手として翻訳者を選ぶことは質の悪い翻訳結果に繋がってしまうことも珍しくありません。予算が限られている場合、MTPE(Machine Translation Post Edit)が可能な業務でないか、MTPE の経験がある翻訳者に打診してみるのも良いでしょう。

参考:

機械翻訳(MT)を利用するMTPEは翻訳コストを削減できるのか?

翻訳が機械翻訳で充分かを判断できる指標を作成しました

翻訳を依頼する場合の相場まとめ


以上が、ランサーズやクラウドワークス、ココナラ、またコニャックといったクラウドソーシングサイトで翻訳家を選ぶ上での注意点です。

上記で『玉石混淆である』と繰り返してはいますが、『クラウドソーシングだから質が悪い』とは限りません。これは翻訳に限らず、ライターやデザイナーなど、あらゆる業種に言えることです。

また、クラウドソーシングを利用すると安価になりやすいのは、そこで可動している人たちがアマチュアやセミプロであるからではなく、例えば翻訳者とクライアントにとっての翻訳会社のような仲介の存在感が薄いからです。クライアントは発注したい相手と直にやり取りすることができますし、仲介手数料は実費ではなくパーセンテージで引かれるので、例えば仲介エージェントが予算の大半を占める、というようなことが起こりません(逆に翻訳会社なら、プロジェクト管理なども一括して仲介が行うので、そこへの費用が発生します)。

ユーザーとしては、クラウドソーシングのコストパフォーマンスが優れている理由とそのリスクについて理解した上で、適切な翻訳者を探すことが求められると言えるでしょう。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
Previous
Previous

翻訳を依頼する場合の料金相場まとめ

Next
Next

翻訳が機械翻訳で充分かを判断できる指標を作成しました