翻訳を依頼する場合の料金相場まとめ

翻訳料金の見積もりをイメージした天秤の画像。

翻訳業務の料金の見積もりは難しいものです。

原文の内容や納期、翻訳の目的、翻訳に関連する業務の有無など、様々な要因があって、個々の翻訳者は見積額を決定しています。そのため、一概に「これくらいが相場」と言っても、それはあらゆる業務を均して考えた場合であることは間違いありません。

しかしそれでも、Lancers(ランサーズ)や Crowdworks(クラウドワークス)、coconala(ココナラ)のようなクラウドソーシングサイトを通じて翻訳者を直接探すことができるようになった今、何となくの相場観を知識として持っておくことは役立ちます。例えば異様に安い金額の見積もりに不信感を覚えられるようになるでしょう。また、逆に非常に高額である場合、それに対して説明を求め、その内容次第で妥当かどうかを判断することもできます。

もちろん、こうした相場観を知っておくことは、これから翻訳家として活動したいという人が自分の値付けをする上でも参考になるでしょう。翻訳家として適切な金額感で仕事をしている翻訳家の方がクラウドソーシング上でも良い翻訳をする傾向にあることは、既に調査済みです。

こうした目的や効果を期待して、以下、2022年版の翻訳通訳白書を参考に、翻訳業界の費用感や料金設定の実態について見ていきます。以下の画像は、別途記載がない限り、すべて翻訳通訳白書からの引用です。

翻訳通訳白書では様々な分野の翻訳の価格帯について触れられていますが、ここでは簡略化のため、『ビジネス分野』の翻訳に限って確認していきます。また、いずれも原文に対して見積もりを行ったケースとなっています。

加えて、以下のデータはすべて2023年12月10日時点で利用可能であったデータに基づくものです。


翻訳会社に依頼した場合の費用感(英日・日英)

以下は、翻訳会社(個人ではなく企業)の、エンドユーザーに向けての翻訳料金の見積もり分布です。まずは『英語から日本語』に翻訳する場合の分布をみてみましょう。

金額感を見てみると、翻訳会社の見積もりでは60%以上の割合で15円〜27円の幅となっています。もちろん、納期やビジネス分野の中での専門性など、様々な要因があるため、同じ会社でも見積もりがその度に異なるということもあるかもしれません。

続いて、以下は日英の場合の見積金額です。

こちらは11円〜19円が60%以上となっています。英日と差があるのは、英日の場合は単語数、日英の場合は文字数で換算するため、数値だけを見ると日英の方が大きくなりやすいためであると考えられます。

しかし実際のところ、日英翻訳を提供している翻訳者は比較して少ないことが分かっています。したがって、日英翻訳の料金が供給が少ないことから割高になる場合もあるかもしれません(以下の画像は、翻訳者が提供している言語ペアに関する回答です)。


翻訳会社に対する個人翻訳家の費用感(英日・日英)

上記を踏まえた上で、『翻訳会社から業務を委託している翻訳者は、翻訳会社からいくらもらっているのか』を見てみましょう。これを明らかにすることで、翻訳会社におよそどれくらいのマネジメント費用が掛かっているのかを確認できます。

英日翻訳の場合、7円〜11円が圧倒的に多くを占めており、11〜15円も次いで高い、という結果になっています。翻訳会社に依頼した場合の金額感が15円〜27円であることを鑑みると、翻訳会社がエンドクライアントから貰い受けた金額のおよそ半分が実際に担当した翻訳者に入っていることになります。

続いて、日英翻訳の場合も見てみましょう。

こちらは5〜9円が多くなっています。翻訳会社のクライアントへの日英翻訳の料金相場が11円〜19円であることを鑑みると、やはり50%前後が翻訳者に分配されていることが分かります。

いわゆるクラウドソーシングで依頼するのが安価になりやすいのは、こういった背景があると言えます。つまり、翻訳会社のマネジメント費用などによって、エンドクライアントが支払うべき金額感が膨れているところを、クラウドソーシングであれば翻訳者に直接発注できるのが理由です。

もちろん、翻訳会社のマネジメントが良いクオリティであれば、そこに予算を割くことは無駄ではないかもしれませんし、個人の翻訳者でも、その値付けによっては結局翻訳会社に依頼するのと変わらない金額感になってしまうかもしれません。加えてもちろん、個人の翻訳者の値付けが高いからといって、必ずしもそれが『ぼったくり』であるとも限りません(専門知識の有無や経験、需要と供給のバランスなどによって妥当性は異なります)。

では、個人の翻訳者はどれくらいの費用感で受注していることが多いのか、同じく翻訳通訳白書を紐解いていきましょう。


個人の翻訳家に直接依頼した場合の費用感(英日・日英)

まず、個人の翻訳家に英日翻訳を依頼した場合の金額感についてデータを見ていきましょう。これは、翻訳会社やエージェントを通さず、エンドクライアントが直接翻訳者に依頼しているケースを指します。

これを見ると、9円〜19円が多いことが分かります。翻訳会社の見積もりが15円〜27円であることを鑑みると、個人に直接依頼することで、費用感を大幅に抑えられることが分かります。

もちろん、前述したように、翻訳会社のマネジメントの内容やプロジェクトの規模などによっては、翻訳会社に依頼する方が総合的には利点が大きいケースもありえます。この辺りについては実際に問い合わせの上、妥当性を判断するのが良いでしょう。

次に、日英翻訳の見積もり幅を見てみましょう。

こちらはかなり幅が広いのですが、特に多いのは9円〜17円のゾーンであると言えます。翻訳会社の相場帯である11円〜19円と比較すると、やはり個人に依頼するのは予算を削減する上で効果的であると言えますが、英日ほどの価格感の違いはなさそうです。このことは、前述した『日英翻訳を提供している翻訳者の数が少ない』ことと関係しているかもしれません。

では、昨今よく用いられている、ランサーズやクラウドワークス、ココナラなどで翻訳を依頼する場合、どのような金額感になるのでしょうか。


クラウドソーシングの相場基準

見積もりの裁量は個人に完全に依存しているため、金額感は千差万別ではありますが、特にランサーズとクラウドワークスでは、おおよその相場を依頼者に対して表示しています。

例えば、ランサーズで翻訳業務を委託しようとすると、次のような表示が出ます。

*ランサーズでの翻訳依頼時に表示される参考相場表

英日の単価が8円、日英の単価が6円であるとされていますが、どちらも個人翻訳者への依頼金額帯より下回っています。翻訳会社からの個人翻訳家の支払いと比較すると妥当な金額帯ではありますが、個人に直接依頼できるプラットフォームにおいて、翻訳会社からの支払い相場を基準とすることに合理性はありません。

もちろん、以上は参考価格とされるものであり、内容や種類によって金額が変動するものであることは付記されています。しかし業界の相場帯と比較すると、ランサーズが『参考指標』としている価格帯が割安であることは明らかです。

続いて、クラウドワークスの指標を見てみましょう。

*クラウドワークスでの翻訳依頼時に表示される参考相場表

下に『約2,000文字の英語記事の翻訳』とあることから、およそ文字単価5円程度であることが想定されます。ただし、『2,000文字の英語記事』という表現は、英語記事なら単語換算がメインであり、文字換算するなら『日本語記事の翻訳』になるはずですから、内容が分かりにくく、曖昧になっています。

しかし文字単価5円(あるいは単語単価5円?)というのは、個人翻訳者への依頼金額と比較するとやはり低くなっています。ランサーズよりもさらに割安になっていると言って間違いありません。

ちなみにココナラで試しに翻訳業務(英日翻訳)の依頼を立てた際には、特にこれといった指標は表示されませんでした。

実際の依頼に対する提案金額

試しにランサーズ、クラウドワークス、ココナラで400単語程度の翻訳記事を依頼した際の見積もり金額を以下の通りまとめました。いずれも5日間、同条件で募集しています。アカウントは新しいアカウントを作成し、これで募集しました。ただし、翻訳通訳白書と比較して明らかに外れ値となっている見積もり金額は計算・計上から除外しています。

ランサーズ: 52件、見積もりの平均は5,676円、中央値は5,250円

クラウドワークス: 34件、見積もりの平均は3,210円、中央値は2,554円

ココナラ: 29件、見積もりの平均は2,579円、中央値は2,000円

今回の依頼は400単語程度の翻訳を1件ということで、例えば単語単価だけではなく、最低受注金額を設定しているといった理由で割高になっている可能性もあります。加えて、個人ではなく会社が受注用のアカウントを持っている場合もあり、その場合にはやはり見積もり金額が高くなる傾向にあります。

ただ、平均と中央値のいずれを見ても、実際に表示される単価基準よりも高めの見積もりをしているユーザーが多いことが分かります。加えて、傾向としてはランサーズの単価が高く、クラウドワークスやココナラは安いと言えます。

クラウドソーシングサイトが安い理由

前述したように、クラウドソーシングサイトで翻訳を発注した場合に安価になりやすいのは、翻訳会社がマネジメントなどで仲介しないため、そこに費用が発生しないためです。言い換えれば、(少なくとも理想的な形としては)クラウドソーシングサイトの翻訳者が未熟であるから安価であるわけではありません

しかし、クラウドソーシングサイトだけで翻訳を受注している場合や、あるいは副業であるからといった理由で、クラウドソーシングでの翻訳見積もりが業界水準を大きく下回ることがあります。また、そうしたユーザーが多いことから、プラットフォームとしても参考価格を低めに設定して表示する必要があったという背景もあるかもしれません。

そのためクラウドソーシングサイトのユーザーは、翻訳の見積もりを受けたとき、その金額が業界水準と比較して妥当であるか、また明らかに安い・高い場合にそれについて納得のできる理由が説明されるか、考慮する必要があると言えます。また、クラウドソーシングサイトで依頼することが安価になりやすいメカニズムを理解した上で、適切な値付けを行っている翻訳者を選ぶことが大切です。


翻訳の見積もりの妥当性について

翻訳の見積もりの妥当性を評価する上で、上記のような客観的データを参考にすることは有効です。ただし、翻訳者の翻訳能力やそれに付随する調査や専門知識(デザイン、マーケティング、SEO、データ分析、業界知識など)の必要性、納期、特急料金の有無などによって、総合的な金額感は大きく異なります。もちろん、レビューやMTPE(Machine Translation Post Edit)の価格帯も別に存在しています。

そのため、上記のような金額感から大きく外れているような場合、どうしてそのような金額感であるのかの説明を求めるのも良いでしょう。それによってその翻訳者の誠実さや能力、経験などが明らかになるケースもあるはずです。

例えば堂本の場合、言語学に基づいた翻訳、SEOを含むローカリゼーションの対応、複数の文体や表現の使い分け、トランスクリエーション、純粋な文章力などをこれまでのクライアントに評価して頂いていることが現時点での金額感に繋がっています。

Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
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