MTPEの料金相場の考察まとめ
機械翻訳の登場により、翻訳者の役割は純粋な翻訳だけでなく、MTPE(Machine Translation Post Edit)にも及ぶようになりました。これは、機械翻訳を用いて下地を訳した後に、その機械翻訳の内容をチェックして必要な修正を加えるというやり方です。MTPE の有効性については以前に別の記事を作成していますので、よろしければ合わせてご参考ください。
上記の記事でも言及している通り、この MTPE についてはその有効性に議論の余地がありますが、適切な状況とプライオリティの取捨選択があれば、限られた予算や時間で翻訳をすることが可能になる場合もあります。では、MTPE のような業務の料金相場はどれくらいなのでしょうか。翻訳の料金相場については以前に記事を公開していますが、ここでは MTPE の料金相場を掘り下げ、コスト面での有用性を確認してみましょう。
今回のデータも、翻訳通訳白書の2023年時点での最新版の情報に基づいており、原文基準での『個人の翻訳家』が『翻訳会社』に出している見積もりの情報となっています。したがって、Lancers(ランサーズ)や Crowdworks(クラウドワークス)、coconala(ココナラ)といったクラウドソーシングサイトにおける金額感とは異なる場合がありますが、それでもこうしたクラウドソーシングサイトにおける料金の相場感をイメージする上では参考になるものと思われます。
MTPE の需要について
2020年度から2022年度にかけて、PE(Post Edit)の依頼は明らかに増加傾向にあります。ここでの PE が機械翻訳に対するポストエディット(MTPE)なのか、それとも他の翻訳者の翻訳に対するポストエディットなのか、あるいはその両方を含むのかについては、該当ページの情報からは明らかではありません。
実際のところ、MTPE は、レビュー的な立ち位置であるとも言えます。したがって、上記のデータは人間の翻訳と機械翻訳で PE の金額に変更がないことが多いということを表している可能性もあります。
PE(ポストエディット)の金額感について
ここで、翻訳会社から依頼を受けた翻訳者が、会社側に対して PE についてどれくらいの料金で請け負っているのかを確認してみましょう。まずは英日翻訳の料金です。
料金にばらつきはありますが、どうやら5円〜7円程度が多いようです。翻訳会社に対する個人翻訳家の翻訳の費用感(英日)では7〜11円が多くなっていることから、通常の翻訳料金の6割ほどで請け負っている翻訳者が多いようであることが伺えます。
続いて、日英翻訳の PE の料金相場をみてみましょう。こちらも翻訳会社に対する個人翻訳家の料金です。
ここでは、5円未満という回答が最も多く、次いで5〜7円となっています。翻訳会社に対する個人翻訳家の日英翻訳料金では、5〜9円が6割となっていましたので、こちらもやはり通常料金の6割程度で PE を受注していることが伺えます。
MTPE の有効性の制限
以上から、料金設定だけを見るなら、MTPE という作業は通常料金の6割程度の見積もりになるケースが多く、クライアントとしては予算を抑えられそうであるということが言えます。
ただし、翻訳者の目線では、仮に金額が翻訳相場の6割になるということは、業務効率は倍近くなっていなければ割に合わないということになります。
仮に、1時間程度で終わる翻訳を5,000円で受注している翻訳者がいるとしましょう。加えて、この人物が翻訳の料金相場の6割で MTPE を行い、MTPE をすることで得られる業務効率の改善が25%程度であるとしましょう。このことは、1時間かかる仕事が45分で終わることを意味しています。
仮に5,000円の仕事の60%は3,000円ですから、45分で3,000円が得られたことになりますが、これを時給換算すると4,000円ということになります。このことは、翻訳者側にとって、通常の翻訳を行えば5,000円の利益であったものが、MTPE として受注することで損をすることになることを表しています。
また、MTPE を取り入れることは機械翻訳をベースとすることであり、ゼロから翻訳者が翻訳する場合と比較すれば、多くの場合確実に質が落ちます。こうしたことから、見かけ上の料金が割安になることに対して、実質的なリターンが必ずしも見合っているとは限らないのが MTPE という作業です。
もちろん、例えば機械翻訳を取り入れることで作業効率が著しく向上する場合や、ある程度クオリティを犠牲にしても納期や予算に都合を付けたい場合もあり、そういったケースでは MTPE は有効です。しかしその判断は、実際に翻訳者が原文や翻訳の利用目的などを鑑みて行うのが望ましいと言えるでしょう。