英語に堪能でもビジネスに通訳が必要な理由
本記事の3行要約
通訳者を使うことで、話者は母国語で深く正確に思考できるため、ビジネス上の判断や交渉がより精密になる。
通訳者の存在は相手側に安心感を与え、信頼性や真剣さを示す効果がある。
通訳者を介すことで対談が三者の鼎談となり、会話の冷静化や良好な雰囲気の維持に寄与する。
ChatGPT や Gemini、Grok などの生成AIの進化はもとより、DeepL などの従来の翻訳ツール、また Apple が提供しようとしているものを初めとする自動通訳ツールの進化により、翻訳や通訳という仕事が不要になるのではないか、という話は何度も繰り返し聞かれるところです。
これについて、大前提として最終的には市場の需要によると私は考えています。その上で、翻訳については言葉のプロとしての専門家に表現をブラッシュアップしてもらうほか、SEOやマーケティング、ブランディングなどの言葉選びの手前から判断を仰ぐといった価値、また『アート』としての翻訳の価値も在り得ると常々発信しているところです。
では、通訳はどうでしょうか。私は、通訳者の必要性は翻訳とは似て非なるところにあると考えています。例えば、観光における通訳者は、現地でのコンシェルジュやツアーコンダクターなどを兼ねることがあります。これは直接的に旅行者にとっての安心の保証であると言えるでしょう。
一方、ビジネスの場における通訳者はどのような付加価値を持ち得るでしょうか。以下は、これについて深掘りした内容となります。
ビジネスの場における通訳者
翻訳も通訳も、プロに頼むという点で安心ではあるものの、やはり自分自身で考えた言葉で話せる方が良いのではないか、と考える人もいます。この考え方それ自体は間違っていないと思います。では、自分自身が英語を話せるのであれば、ビジネスの場で敢えて通訳を雇う必要はないのでしょうか。
必要があるかないかで言えば、その場合には絶対に必要とは限りません。しかし通訳者を取り入れることは、ビジネスにおいて大きな意味合いを持ちます。
思考言語が母国語になる
まず分かりやすいメリットとしては、『自分の言葉で考えられる』という点があります。どれだけ英語が流暢であったとしても、基本的に思考するときの言語は母国語が最も効率的であり、かつ深く思考できるものです。日本語は語彙も豊富ですので、思考する上でのツールとしても言語的に不便さを感じることは少ないでしょう。
プライベートであれば、そこまで複雑に英語で状況を処理する必要はないかもしれません。しかしビジネスの場合は僅かな表現の違いや条件の相違のためにチャンスを無碍にしてしまうこともあるものです。何を伝えるべきでありどのような考えてあるのかといったことを日本語で正確に思考できることは、大きなメリットです。
相手への安心の保証
プライベートの英語が流暢であったとしても、ビジネスの英語が流暢であるとは限りません。仮に事実としては問題なくとも、交渉相手の目線からは、やはり母国語が異なる相手との会談は相手も少なからず不安があることが少なくありません。
このようなとき、その場に通訳者がいることは、相手が安心して言いたいことを言えることを保証していることにもなります。また、万全を期してプロの通訳者をその場に置いていることは、そのシーンへの真剣度の証拠として受け止められるかもしれません。
対談が鼎談になる
個人的に最も大きな意味を持ち、かつツールにはない付加価値はこれだと考えています。つまり、通訳者がいない場面なら二者の対談であったのが、少なくとも通訳者を入れることで、三者の鼎談になるという効果です。
もちろん、通訳者はあくまで言語の橋渡しの役割、あるいは橋そのものであり、会話に積極的に入ることはありません。しかし、二者ではなく三者であることで、あるいはヒートアップしていたかもしれない議論が冷静に進められたり、雰囲気が張り詰めすぎなかったりといった効果がある場合もあります。または、自分に歩み寄って理解しようとしてくれる人間が少なくとも確実にひとりその場にいるというだけで、心強く感じることもあるかもしれません。
以上が、通訳者という立場に個人的に感じる、通訳者を雇うメリットです。
もちろん、細かく言えば同時通訳なのか逐次通訳なのか、相手も通訳者を用意しているのか、といったところも関係してきます。ただ確実なのは、『その場にひとり人間が増える』ことの意味、そしてそれによる効果は、決して小さくないだろうということです。翻って言えば、通訳者は、それだけの付加価値をクライアントに提供できるようにしなければならないとも言えます。
