英語業務や翻訳におけるChatGPTの使い方
近年、AI技術が急速に進化していますが、その中でも特に注目を集めているのがChatGPT です。特に ChatGPT-4 は、その高いパフォーマンスが広く評価されています。
この記事では、ChatGPT の基本的な情報から、英語業務や翻訳作業での利用法、その限界や注意点について、翻訳家の目線も含めて詳しく解説します。
追記 2024.3.15
以下は ChatGPT の翻訳における使い方・利用方法の解説ですが、2024年3月現在、Claude 3 という新たな生成AIも注目を集めています。このClaude 3 と ChatGPT の比較については別の記事にまとめていますが、以下のプロンプトなどについては Claude 3 でも利用可能です。
ChatGPT とは?
ChatGPT は OpenAI によって開発された人工知能技術を用いた大規模な言語モデルです。このモデルは大量のテキストデータから学習し、自然言語を理解し、人間が理解できるようなテキストを生成する能力を持っています。
単に文章を生成することができるだけでなく、特定のタスクを行わせることもできます。そうした ChatGPT が実現可能なタスクの中には『翻訳』もありますが、そのパフォーマンスと翻訳における使い方についてはユーザーがよく理解しておくことが重要です。
翻訳とChatGPT
ChatGPT は英語から他の言語へ、またはその逆の翻訳を行うためのツールとして使うことができます。確かにその平均的なクオリティは自動翻訳であることを鑑みると高いのですが、例えば DeepL のような翻訳ツールと比較すると一歩劣るところがあります。これは、ChatGPT はあくまで汎用的なツールであり、翻訳用のツールではないことが原因です。
こうしたことから、単純に翻訳だけを行うなら、DeepL や Google Translate のような専用のツールを使う方が適切な場面が多いと思われます。翻訳にかかる時間も、ChatGPT と DeepL なら、後者の方が圧倒的に速いと言えます。
一方、複数の翻訳のバリエーションを出してもらったり、特定の箇所について確認したいというようなカスタマイズ性の高い業務の場合、使い方によっては ChatGPT が有効な場合もあります。
また、ChatGPT は現時点(2023年6月)で大きく分けると GPT-3.5 と GPT-4 のふたつのバージョンが公開されていますが、この GPT-3.5 と GPT-4 では性能に雲泥の差があります。翻訳というタスクは外見以上に複雑なタスクなので、少しでもパフォーマンスを向上させたいなら、GPT-4 を利用することが推奨されます。
ちなみに2023年11月末の時点で、ChatGPT-4 の情報のアップデートが行われ、API としては ChatGPT-4 Turbo も利用できるようになりましたが、本質的な情報処理の仕組みについては大きな変化はありません。
翻訳のための ChatGPT の使い方
ChatGPT は、入力された命令やテキストに対して、その都度異なるレスポンスを返します。一方、DeepL のような翻訳ツールは、一度行った翻訳を直後に繰り返した場合、基本的には同じ結果が返ってきます。
このことは、翻訳の統一感を高める上では DeepL が役立つこともある一方、適切な言い方を模索する中で翻訳のバリエーションを確認したいような場合には ChatGPT に何度も翻訳をさせることが有効である場合があることを示しています。そしてそうしたバリエーションの中には、DeepL よりも優れた翻訳と言えるものが含まれることもあります。
例えば、「体調を崩したので今週のミーティングを欠席させてください」という日本語を英語にするとき、DeepL は “I have been ill and must miss this week's meeting.” と訳します。これは表現としては間違っていませんが、欠席の許可を求める英語としてはややぶっきらぼうな印象です。
一方 ChatGPT-4 に “Translate the following text into English: I have been ill and must miss this week's meeting.” という指示で翻訳をさせると、“I am not feeling well, so please allow me to be absent from this week's meeting.” と出ます。こちらは “Please allow me” と許可を求める形になっていて、DeepL の英文と比較するとベターです。
このように、DeepL と ChatGPT の両方に翻訳をさせて、より良い方を選ぶようにする、という使い方が当面のベストプラクティスになるでしょう。ただし、ChatGPT が生成する翻訳は(また、DeepL が生成する翻訳も)完璧なものではないため、最終的な品質確認や校正は専門家が行うことがベストプラクティス上は望ましいと言えます。
ChatGPT における翻訳の文体のブレ
ChatGPT の翻訳は、プロンプトによっても精度が異なります。
例えば、日本語で「次の日本語を英文にしてください。体調を崩したので今週のミーティングを欠席させてください。」と打つと “I am not feeling well, so I will be absent from this week's meeting.” と出ますが、これは許可を得る形になっておらず、DeepL と近い印象になってしまっています。
一方、細かくプロンプトで指定できることを利用して、「次の日本語を許可を求める形の丁寧な英文にしてください。体調を崩したので今週のミーティングを欠席させてください」というプロンプトにすると、その結果は “I am not feeling well, so would it be possible for me to be excused from this week's meeting?” となります。これは関係性によってはやや丁寧すぎるきらいもありますが、仮に上司に送るメールの一文なら、ぶっきらぼうな印象になるよりは良いでしょう。
このように、ChatGPT による翻訳は文体を指定できるという点で DeepL や Google Translate にはない能力を備えていると言えます。この辺りを上手く活用していくことが、ChatGPT を翻訳業務で使いこなすためのコツになるでしょう。そしてそのためには、ChatGPT の出力が適切であるか(例えば上記のように “丁寧過ぎる” ということはないか)を確認する目も必要になります。それを踏まえた上でその他の翻訳ツールと併用すれば、業務の効率化に繋がる可能性が見えてきます。
4. 翻訳ツールとしての ChatGPT の注意点
既に言及したとおり、ChatGPT の翻訳結果が常に正しい(あるいは適切である)とは限りません。また、実際に何度かテストをしてみたところ、ChatGPT が原文にない表現を訳文(つまり出力結果)に入れ込むということもありました。つまり、純粋に翻訳したのではなく、創作し始めてしまったということです。その創作の内容が原文の理解を助けるようなものであれば良いのですが、この場合は完全に無関係の話を始めてしまったという点で大きな問題でした。
また、ChatGPT を使用する際には、プライバシーの保護が重要となります。ChatGPT は学習の一部として入力されたデータを用いることがあるため、特にセンシティブなデータや機密情報を翻訳する上で使うのにはリスクが伴います。2023年現在、そうした学習データとして使用されないように設定することはできますが、一定期間はデータが保存されることには注意が必要です(とは言え、これは DeepL などのツールにも同じことが言えます)。
5. 英語業務における使い方
前述したように、ChatGPT は翻訳をさせた際に『原文にないこと』を出力する場合があります。そこで、翻訳をさせるのではなく、「どういう英文を書いて欲しいか」を直接伝えるという方法が良いこともあります。
例えば、『体調が悪く、今週のミーティングを休みたいという主旨のメールを上司に送りたいので、英語で文面を作ってください』と ChatGPT-4 に依頼すると、次のような文面ができます。
Subject: Request for Absence from This Week's Meeting
Dear [Supervisor's Name],
I hope this message finds you well. Unfortunately, I am writing to inform you that I am currently experiencing some health issues. As a result, I am not feeling well enough to attend this week's meeting.
I understand the importance of the meeting, and I apologize for any inconvenience my absence may cause. If there is any information or updates that I need to be aware of, I would greatly appreciate it if you could share them with me.
Please let me know if it would be possible to be excused from the meeting this week. I will do my best to recover quickly and return to work as soon as possible.
Thank you for your understanding and support.
Sincerely,
[Your Name]
この英文では、「体調が悪いので欠席したい、そのことについて申し訳なく思っている、何か進展があれば伝えて欲しい、できるだけ早く体調を戻すように努める」といったことが言われており、基本的な英文メールの構造をクリアしたものとなっています。内容や相手との関係性を鑑みて文面に問題がなければ、[Your Name]のところを自分の名前にしてそのまま送っても良いでしょう。
このように、日本語を用意しなくとも英文を書けるという点は ChatGPT のもうひとつの強みでもあります。
まとめ
ChatGPT は、英語業務や翻訳作業における重要なツールとなる可能性を持つ、人工知能技術を用いた大規模な言語モデルです。翻訳支援や校正、文体修正のためのツールとして利用することができますが、その出力は絶対的なものではなく、人間による品質確認と校正が必要です。
他のAIツールと比較しても、ChatGPT は独自の利点を持つ一方で、限界も存在します。ツールの選択は特定の状況や要件に基づいて行われるべきであり、全てのケースにおいて ChatGPT が最適なわけではありません。それでも翻訳業務における適切な ChatGPT の使い方を身につけることで ChatGPT をセカンドオピニオン的に活用することは価値のある使い方であると言えそうです。