ChatGPTを活用したビジネス翻訳: 文体の指定やプロンプトなど

翻訳の世界は、人工知能(AI)の力で大きな変革を遂げています。OpenAI によって開発された GPT-4 ベース(あるいは GPT-3.5 ベース)の ChatGPT は、その中でも特に注目を集めています。ChatGPT は一般的な対話や質問応答だけでなく、多言語の翻訳にも用いることができるためです。

ただし、ChatGPT の登場によってこれまでの翻訳ツールが完全に不要になるということではありません(もちろん、人間の翻訳家が不要になるということでもありません)。この記事では、ChatGPT の翻訳が DeepL や Google Translate のようなツールとどのように異なるか、また翻訳上用いることのできるプロンプトの可能性について解説します。


ChatGPTと翻訳

英日・日英翻訳のために ChatGPT を活用する場合、「翻訳して欲しいという指令」の後に「翻訳したい文」を入れます。

これは日本語で指示しても英語で指示しても良いのですが、英語で指示をした方が良い結果になりやすいとされています。これは、ChatGPT の訓練データの大部分が英語であるためです。

このため、例えば、“Hello, how are you?” というフレーズを日本語に翻訳する場合は、 “Translate the following English text to Japanese: Hello, how are you?” をなどと入力することになります。日本語なら、「以下の英文を日本語にしてください。Hello, how are you? 」というプロンプトになるでしょう。

基本となるプロンプトの一例は次の通りです。ただし、以下のプロンプトは一例です。

英語から日本語に翻訳する場合

Translate the following English text to Japanese: [ここに英文]

日本語から英語に翻訳する場合

Translate the following Japanese text to English: [ここに日本語文]

プロンプトによる文体の指定の基本

ChatGPT は特定の文体やトーンに対応する能力も備えており、その文体を指定することで、より適切な翻訳を得られる可能性が高まります。

敬語での翻訳(日本語)

“Translate the following English text to Japanese in polite form: [ここに英文]”

例: "Translate the following English text to Japanese in polite form: 'Can you help me?'"

このプロンプトは敬語形式の日本語を出力できます。たとえば、"お手伝いいただけますか?"といったような翻訳が返されます。

カジュアルな形式での翻訳(日本語)

“Translate the following English text to Japanese in casual form: [ここに英文]”

例: "Translate the following English text to Japanese in casual form: 'How's your day?'"

このプロンプトは友人と話すようなカジュアルな形式での日本語を出力できます。たとえば、"今日はどうだった?"といったような翻訳が返されます。

ビジネススタイルでの翻訳(英語)

“Translate the following Japanese text to English in business style: [ここに日本語文]”

例: "Translate the following Japanese text to English in business style: '私たちはあなたの提案に興味があります。'"

このプロンプトはビジネス文体の英語での翻訳を出力できます。たとえば、"We are interested in your proposal."といったような翻訳が返されます。

カジュアルな形式での翻訳(英語)

“Translate the following Japanese text to English in casual style: [ここに日本語文]”

例: "Translate the following Japanese text to English in casual style: '今日の天気はどうだった?'"

このプロンプトは友人と話すようなカジュアルな形式での英語の翻訳を出力できます。たとえば、"How was the weather today?"といったような翻訳が返されます。

文体指定のカスタマイズ

上記のプロンプトを参考に、“Translate the following text into Japanese in XX form/style.” の XX の部分に casual や friendly などの指定を入れることで、文体を比較的容易にカスタマイズできます。

また、日本語でも「次の日本語を、上司への言葉使いで英語に翻訳してください。[ここに日本語]」のようなプロンプトの書き方をすることで、文体を指定することができます。

用途にあった出力をさせる

例えば日本語で、「次の日本語を、会社の同僚に送るメールとして英語に翻訳してください。[ここに日本語]」や、「次の日本語の内容を踏まえた、取引先へ送るメールを英語で書いてください。[ここに日本語]」、「次の要素を踏まえた顧客へのメールを英語で書いてください。[ここに内容を箇条書き]」のようなプロンプトを使うことで、純粋な翻訳ではなく、英文のリライト要素が強めの出力を得ることもできます。

これは非常に便利ですが、一方で原文に縛られない出力にもなるため、原文で言われていないことが英文の中に入り込んでしまったりすることがあります。そのため、通常の翻訳時よりも、より出力内容が間違っていないかどうかを注意しなければなりません。

ChatGPT の限界と注意点

ChatGPT の学習データは2021年9月までのものであり、その後の新しい言葉やフレーズについては完全に理解できないかもしれません。さらに、難解な専門用語や極めて特異な文化的な表現を適切に翻訳する能力も限定的です。

加えて、より高い精度の翻訳のためには ChatGPT-4 のモデルが必要ですが、これは有料である上、ChatGPT-3.5 と比較すると出力に時間が掛かります。そのため、基本的な翻訳業務であれば、ChatGPT ではなく、従来の通り DeepL や Google Translate などを使う方が無難です。あくまで DeepL や Google Translate の翻訳を得た上で、ChatGPT にセカンドオピニオン的に翻訳をしてもらうのが良いでしょう。

ただいずれの場合でも、機械翻訳の精度は現在90%程度と言われており、手放しで使える精度とは言い難いのが現状です。

したがって、ChatGPTをビジネス翻訳のツールとして活用したり DeepL や Google Translate などの機械翻訳ツールを活用したりする場合には、その出力結果を人間がチェックし、適宜修正することが必要となります。特に専門的な文書や重要なコミュニケーションについては、専門的な翻訳者による翻訳を引き続き活用するのがベストプラクティスとなります。


Akitsugu Domoto

Translator, wordsmith, speaker, author and part-time YouTuber.

https://word-tailor.com
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